貰いきれないくらい、貰ったよ。
ねぇたまには僕にも与えさせて?



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春の月1日。
数年前から、この日はもちつき大会の他にもう一つ、あるイベントが出来た。
その名も『何か色々誕生祭』。良く分からないネーミングは言いだしっぺ本人が付けたもので、これを実行するのもまた彼女だった。
毎年この日は、彼女が新年の挨拶を兼ね、なぜか僕の所に何か持ってくるのだ。

彼女自身の誕生日は思い切り夏。だから、『誕生祭』と言う意味をいつか本人に尋ねた。
彼女は笑って答えた。

「ちょうどこの日にね、今の牧場を始めたの。だから『誕生』」

そして、毎年僕に『なにかいいもの』を持ってくる。
その時の表情をどこかで見たことがあると思っっていたが、去年やっと気付いた。
彼女が動物と戯れている時、そういえばこんな表情だ。
もしかして僕自身も同類項なのかと思うと、少しだけ複雑な表情ではあったけれど。


「クリフ、いるー?」
「どうぞ」

宿屋でのんびりしていると、クレアさんの声がしたのでドアを開ける。
彼女はぴょこんと顔を覗かせ、僕を見ると笑った。
微かないい匂い。香水なんか付けてないはずなのに、どうしてだろう。
いつものことではあるが、遠慮なく部屋に入り込んで部屋を見回す。そして、僕の方へ向き直った。

「グレイは?」
「何か急に仕事が入ったとかで、半泣きで朝出て行ったよ」
「そうなんだ。正月から大変ねぇ」
「何でも、どっかの牧場主が年末に何か依頼かけたらしいよ。しかも大量に」
「……まぁ、ほら。新年は心も新たに、道具も綺麗にして始めたいじゃん?」

自らが頼んだ仕事の量を思い出したのか、白々しく僕から視線を逸らしてそう言った。
グレイには不謹慎かもしれないが、思わず笑ってしまう。
好きな人と部屋に二人きり。
そんな状況は、彼女が放つ雰囲気のおかげでなぜか妙に落ち着く。
落ち着くついでに、盛大に腹の虫が騒いだ。
意外と響いた音に笑いをこらえる彼女は、しかし結構頻繁に彼女自身が同じことをやってるのだけれど。

「お昼ごはん、まだなの?」
「いや、もう15時だしさすがに。でも、最近やたらとおなか空くんだよね」
「成長期なのかね?いいことじゃん」
「あの、僕そろそろいい年こくんですけど」

僕の言葉に、クレアさんが露骨にイヤそうな顔になる。
彼女の年齢は僕より少し上らしく、なぜかそれが無性に気になるらしい。
正直そんなの気にしたことも無いのに、今日も彼女は眉間に皺を寄せる。

「アンタがいい年なら、私はどうなんのよ」
「クレアさん、いくつだっけ?」
「死んでも答えません」
「そこまでですか」

僕が笑うと、更に彼女は不機嫌そうになる。
しかし、やがて「まいっか」と気を取り直し、自分の荷物をがさがさと触りだした。

「そだ、アンタが年の話ばっかりするから忘れるとこだったじゃん」
「いや、ばっかりって訳じゃ……」
「ほら、今年の『何か色々誕生祭』、今年はねー、すごいよー。自信作!」
「ああ、今年もやるんだ。やっぱり」
「当然!ていうか、私エスパーかもしんない。だって、今年は」
「何?」

「持ってくるのを忘れたようです」
「え?」

ちょ。
自分で引っ張っておきながら、ナチュラルにそう言った彼女は、てへ、と可愛く首をかしげている。

「いやー、ごめんねー。まぁウチもそこまで遠くないし、今から取りに行って」
「あ、ちょっと待った」

早速立ち上がって家に帰ろうとする彼女を、思わず引き止める。
さすがにそれは申し訳ない。それに、何より。

「クレアさん、さ」
「ん、何?」
「何で『誕生祭』なのに、僕に色々くれるの?」
「は?どういうこと?」
「いや、本来なら貰うのはクレアさんの方じゃん」

僕の言葉に、彼女は少しだけ考える。
そして、はっと気付いたように目を見開いた。

「そっか、そうだね!うわ、全然気付かなかった!」
「マジですか」
「いや、マジで」

まぁ、自分は動物と同類項だし。
だとしたら、そもそも何か貰おうとする発想が抜けるのも分かる気がする。
けれど。

「じゃあ、今年からは僕から何か送るよ」
「へ?」
「何が欲しい?」

瞬時に、きょとんとした彼女の表情。
そんなことを言われるとは思ってもなかったらしく、返答もせずに固まっている。
僕はその顔の前で、軽く手を振ってみた。

「……え?いや、えーと」
「好きなもの。何でもいいよ」
「丘の上の別荘、とか」
「ごめんなさいすみません訂正します。出来れば僕の出来る範囲で」
「クリフの?」

僕の言葉に、彼女はじっと僕を見つめた。
何を思っているのだろう。やはり、『お前に何が出来るよ?』という感じだろうか?
しかし、確かに出来ることは限られているよなと、自分の言葉に反省しかけた頃、すっと彼女の手が僕に伸びた。
それはそっと僕の襟元で止まる。
少し硬い表情になった彼女に、何か変なことを言ってしまったのだろうかと心配になる。

「ごめん。何か、逆に貰うのって慣れてなくて」
「ああ、そうなの」
「……何でも?」
「え?」
「何でも、いいの?」

もちろん、と頷く。そしてその一瞬後に、言いようのない不安に襲われる。
思えば、数年であの荒地を見事に復興させ、様々な方向から収益を出している器用な彼女なら、大抵のものは手に入るだろう。
それを敢えて、そして思いつめたような表情で念を押すということは。

「ちょ、ホント別荘とかは限度額まで借金しても無理だか……!!」

再度訂正しかけた言葉は、途中で強制的に遮られた。
固まる思考、固まる身体。
至近距離の彼女。

「うん、思ったとおり。アンタ可愛い」
「……な、何が?」
「つーことで大好物を頂きました。ゴチソウサマでした」
「いや、だから何が」

彼女がにこりと笑う。
全開の、凶悪な笑み。
まるで、「それ以上ツッコむともう片方の耳にも噛み付くぞ」、とばかりに。


そうだ、耳。
噛まれた、耳。


僕は先ほど彼女に噛まれた箇所を押さえた。先ほどまで冷たかったはずの、熱い耳。
そんな僕の仕草に、彼女が更に笑う。

「折角だし、来年からは貰う側に回ることにするわ」
「へ?」
「よく覚えといてね?私の大好物」



彼女が出て行ったドアを、呆然と見つめる。
そして、言われた最後の言葉を、染み込ませる様に、何度も頭の中で回した。

これは。
この、意味は。

真っ赤になった耳と顔の熱は収まりそうにない。むしろ、全身が熱くて仕方がなかった。
やっと状況を実感する。
じわじわと胸に広がるのは。

「うわ……」

まるで自分ではないかのような声が漏れた。
ただ、純粋に嬉しい。
僕は嬉しくて嬉しくて、ベッドに勢い良く飛び込むと、そのまま階下の迷惑も顧みずにごろごろと転がった。


勢い余って長時間転がり、「やっぱ折角作ったからあげるわ」とお菓子を持って入ってきた彼女に見られたのは秘密。
その後、可愛いと言い続けて笑う彼女に何をされたかは、更に秘密である。




お題【大好物】


企画を出された方から、「どんな意味の『大好物』でも構いません」とあったので、張り切ってクレア攻(待)にしてみました。
結果、読み直したら見れたものではなく、半分以上書き直しという結果に相成りました(←あほ)
ちなみに、祭りに「何か色々」と付いてるのは、クレアの恋心が誕生した日でもあるという裏設定。萌えを伴う一目惚れです(笑)
ちょいとそこまで書き込めませんでしたが、白クリフは受がいいよね!と再認識させてくれた作品です(←…)
同士、求ム。(勘弁してください