実質的な、ホントの初対面の話。



子で出来た



久しぶりに寄った図書館で、彼女を見つけた。
何やら難しそうな本を睨みつけるように眉間に皺を寄せ、じっと動かないでいる。
ふと、彼女がいつもと違うことに気付く。その原因は容易く分かった。

「クレアさん、眼鏡かけてたんだ?」

鍛冶関係の本を片手に彼女に声を掛け、向かい側の席に座る。
この街の図書館はいい本が揃っているものの、決して大きくはなく、読書をするスペースは限られている。よって、彼女との距離は意外に近い。
クレアさんは俺に気付くと、本から目を離してじっと俺を見つめた。
真っ直ぐな視線に思わずどきりとする。いつもはあまり目を合わさずに会話をするイメージがある。
頼まれた道具を届けに行ったときも、クレアさんの見ているものはいつも、動物であったり作物であったり、そう、自分が守るべきものであった。

「……グレイ君、だよね?」
「え?」

彼女がこの牧場に来て半月。
自分への認識があまりにも自信なさそうで、思わず聞き返す。
仕事以外で話したことはロクにないとは言え、その反応はあまりではないか。
彼女は少し固まった俺の前で、眼鏡を外した。

「えっと、ごめんね。私、実はド近眼で」
「……ド近眼?」
「そう。本当に近くしか見えないから、人の顔なんかも未だに覚えられなくて」
「はぁ」

じゃあ普段から眼鏡をかけていればいいのでは?という俺の思考を読んだかのように、「仕事中は眼鏡邪魔だし、コンタクトは逆睫毛で合わないしね」と続けた。
冷たいと言うイメージを抱いていた彼女の雰囲気は、近くにいると思ったよりもずっと柔らいと思った。
俺は思わず彼女の顔を見返してしまう。
彼女はそんな俺に、にこりと満面の笑みを浮かべた。

「でも、今日でグレイ君は覚えた!改めてよろしく」

さて、そろそろ行こうかな。そう言いながら、彼女は読んでいた本にしおりを挟んで下り階段に向かう。
金色の髪が歩くたびにさらさらと揺れた。
俺はといえば、突然の笑顔に未だに固まっていたけれど。

「クレアさん!」

気付けば大声で呼んでいた。がたりと音を立てる椅子。
机に向かい合っていた時ならともかく、恐らく眼鏡を外した彼女からは既に俺の顔は見えないだろう。
彼女の視力の悪さに感謝した。
だって、今の俺の表情なんて、多分人に見せられたものではないから。

呼んだものの、言葉が上手く続かない。
俺からは良く見える、きょとんとした表情。ああ、この人はこんなにも綺麗な顔をしているのか。

「あの、こちらこそ、これからもよろしく!」

これが精一杯。
なぜか心臓がばくばくと音を立てて邪魔をして、いつも以上に言葉が浮かんでこない。
けれど、ただそれだけの俺の言葉に彼女は再び笑った。そして、今度こそ階段を降りる。

俺はなぜだかその瞬間に力が抜けてしまい、へたりとその場に座り込む。
そっと心臓を押さえる。
やけにうるさいなと思った。

ふと机を見やると、先程彼女が外した眼鏡が忘れられている。
今まで邪魔をしていた硝子。今二人を繋げた硝子。
レンズの幾分小さなそれは、存在そのものが冷たい印象を与える。実際の彼女と正反対だった。

けれど、それは彼女の大切なもの。
きっとこれがないと、借りた本を読むのにも苦労するだろう。
そうだ、帰りに届けようか。

そう思い、知らず口元が緩んでいることに気付く。
俺はそんな自分に、一人で苦笑する。
冷たい硝子のそれは、俺の手によって少しずつ温かみを持ち始めていた。





お題【めがね】


グレクレは書きやすい割に、「これだ!」と思うものを作るのが難しいです;;
近眼だとどうしても眉間に皺が寄るから、険しい顔になりなりがちなんですよね。そんな人が意外といい人だと嬉しい。
しかし、半月で名前覚えられてないて(笑)
ドンマイ!!(超他人事)