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伝えたいことは多分、
思っているよりもずっと短くて深いんだ。



コト



『HAPPY BARTHDAY!!』

決してキレイとは言えない、精一杯プラス思考で考えれば男らしい文字。
ポストに入っていたその短い殴り書きのような文字を見て、思わず笑いが漏れた。

「スペル違ってんだよ、バカ」

本人がそこに居ないことは承知で、そう呟いてしまう。
一体、こんな短い内容でどうやったら間違えられるのだろうか。
ていうか自信が無いなら無いで、辞書なりなんなり引けばいいものを。
そんな思いとは裏腹に、ついつい顔はニヤけてしまう。
だって、仕方がない。誰だって、思いがけない嬉しい手紙には表情が緩んでしまうに決まっている。

それが、大事な人であればあるほど。

そっと手紙を封筒にしまい、自宅に入る。
机にそれを置き、お気に入りの便箋と封筒を取り出した。
色んな場所を転々としている彼には届くはずもない。それでも、この嬉しい気持ちをインクで紙に一字一字染み込ませる。

何もいらない、ただ元気で、また会いに来いと。
言いたいことはそれだけのはずなのに、言葉にしてしまうとあまりにも脆くて、却って伝わらない気すらしてくる。
どれだけの言葉を尽くせば伝わるのだろう?
どんな言葉を使えば伝わるのだろう?


ふと、手元の封筒に目が留まる。
差出人の名前の上に、小さくどこかの街の名前と、少し先の日付。
それがあいつの今居る場所と、その期限だということは容易く分かった。

手紙の中身は、間違った文字でたった一行。
封筒の裏には、聞いたこともない街の名前と日付。
たったそれだけで、気持ちが伝わった。

『あー、もうホント、俺来年こそはここに住み着くかも』
お前と離れるのキツいわ。そう、笑いながら言ったあいつの顔が思い浮かぶ。
きっとその軽い言葉は、嘘ではなかったのだ。

書きかけていた長い手紙を読み返し、ぺりりと剥がして捨てる。
代わりに書くのは、たった一言。


『ありがとう。
 また、夏に。』


これだけでいい。きっと伝わる。
そうだ、付け加えるとしたら、たった一つ。

愛用の香水をほんの少し、便箋に染み込ませる。
どことなく人懐こい犬を彷彿とさせるあいつのことだから、この香りを忘れているはずはないだろう。
これだけで、いい。

便箋が一枚入っただけの、やけに軽い手紙に封をする。
ふわりと甘い柑橘系の香りがした。夏を思い出す、心地よい香り。大好きな香り。


壁のカレンダーは、あと一枚めくらないと彼の季節にはならない。
やけに遠く感じるその期間がもどかしく、けれどどこか、待つことを楽しむ自分がいることに気付いた。




お題【手紙】

カイクレ。お互いにかなり放置プレイな付き合いな気がする。
遠距離恋愛って、信頼がないと成り立たないよなと思い、逆に信頼さえあれば過剰な言葉は要らないんじゃないかと。
もし相手がグレイなら、クレアに二行の手紙送ってこられたら泣きそう(笑)