ごめんね。
君の望むような奴にはなれない。



ねぇ、



「ねぇ、クリフってさ、意外に背ぇ大っきいのね」
「どうしたの突然?」

急にそんなことを言ってきたクレアさんに、僕は逆に訊き返した。
たしかに僕の身長は、クレアさんよりも頭一つ分くらい高い。けれど、普通だと思う。
そもそも、彼女が平均よりも少し小さいのだ。

「何かね、クリフって女の子みたいな顔してるし、雰囲気も弟みたいで。だからかな?」
「小さく見えてた?」
「うーん、そういえば、こうやって並んで歩く事もあんまりないよね。だからかも」

へぇ、と軽く返事をする。
しかし、胸中は何故かすごく複雑で。

(弟、ね……)

人を避けてこの街に来た。
その中でもとびきり静かな教会に毎日足を運び、別に祈ることもないのにただそこに座った。
静かならそれで良かった。誰も寄せ付けなければそれで満足だった。

けれど、いつからだろう?本当に、その教会に用があって行くようになったのは。

彼女は突然現れた。
目の前に立って笑いかけ、そして、これでもかというくらい僕に構った。


ねぇ、神様。
何も要りません、僕の静かな生活を返してください。


初めて教会で神に祈った事は、良く覚えている。
そんな祈りも空しく、彼女は頻繁に僕の世界を壊したのだけれど。
今考えれば、足を運ぶのは別に教会でなくても良かった。他に静かな所を探せば良かった。
けれど何故だろう。


ねぇ、神様。
僕にもう一度、大切なものを持たせてください。


僕は世界が壊れるのを承知でそこに通った。
会うのはいつも少し暗い教会で、けれど彼女の髪も声も笑顔も、光に透かした様に輝いていた。
だからふと思った。気まぐれだった。ただ彼女の髪が太陽を思い出させた。

外に出ようと。

久しぶりに外で過ごす昼下がりは、隣に彼女がいる。
無邪気に笑いながら、けれど陽の下でいつも以上にきらきらとしていて。
とん、と首元に、彼女の手が当たる。

「わ、ホントに頭一個分違うね、身長」
「ああ、そうだね」
「クリフも男の子なんだねぇ」

にこり、と笑う。まるで弟の成長に気付いた姉のような表情。
ああそうか。だから僕に構ったのか。
ああそうか。だからそうやって優しく笑うのか。
無邪気な無邪気な、背比べ。

首元の手を掴む。
いきなりの強い力に驚いたのか、驚く彼女の顔。
至近距離で見るその目が今日の空に似ていると、どうでもいい事を思った。

「……っん」
「……」

唇から漏れる、小さな声。それは僕のそれに吹きかかる。
掴んだ手に力は無かったけれど、それでも強く手首を絞めていた。

ゆっくりと唇を離す。
いつからだろう、ぎゅうと閉じられた瞳。
強張っているのが何か可笑しくて、ぽんと頭を叩く。彼女がはっとしたように目を開ける。
合う視線。

「あ……」
「弟じゃ、ない」
「……」
「そうだよ、俺は弟じゃ、ない」

ねぇ。
或いは、君の望むように、少しずつ心を開いて笑う事も出来たかもしれない。
けれど。

(弟なんて)
(冗談じゃない)

「分からないなら何度でも確かめればいい。何度でも、ね?」

何度でも分からせてあげるから。
それが嫌なら、まだ間に合う。俺から離れればいい。


ねぇ、神様。
それをかつて望んだのは、自分だけれど。


教会でもないのに、神を呼んだ。
彼女に背中を向ける。途端に、暖かい感触がした。
さっき背比べをした彼女の手が、背中から僕の前に回っている。

「……ごめんね」

何に対してのものだろう。背中に、だたそれだけの音が震えた。

「なぁ、それ、意味分かってやってんの?」

返事は無い。
代わりに僅かながら、彼女の腕に力がこもる。


俺はその手をもう一度掴み、振り向きざま噛み付くように彼女を奪った。


『意外に背ぇ大っきいのね』
そう言った彼女の言葉を思い出す。
だから、軽々とこういうことも出来る。逆ならば、つまり彼女からならば、その身長差が邪魔をするだろう。

俺はそんな優越感を一方的に感じながら、口の端を上げる。
そして、小さな彼女を抱き寄せた。


ねぇ、神様。
何も要りません。

ただ、


彼女をください。






お題【背比べ】


クリクレは基本、クリフのほうが年下という裏設定で書きます。が、やってることは毎回一番大人です(ぇ)
無意識にかそうでないのか、追いつきたいという思いが焦りになるのか、黒いのに結構余裕がないですテヘ。
ちなみに今回の彼はそんなに背はでかくないんですが、思ってたよりは、って話。
どんだけ小動物だと思ってたんだよ。こいつある意味猛獣だぞ。