※「ねぇ、神様」読了後推奨です。



今日も無邪気な背比べ。
それが、俺を動かすスイッチ。



願うもの、ったひとつ



「前から思ってたんだけどさ、クリフっていっつも何をお祈りしてるの?」
「俺?」
「うん。毎日熱心だよねー」
「大したことじゃない。ただ」
「ただ?」
「『煩い奴が邪魔しに来ませんように』、って」

彼女は笑顔の俺の言葉に「へぇ」と頷いた。そして、たっぷり十秒程経ってからぴたりと止まる。
どうやらその対象が誰なのかに気付いたらしい。「私?」などと、相変わらず騒がしく喚いている。

そんな彼女がふと、口を噤む。
少し迷ったように彼女の右手が動く。一瞬戻しかけたが、それは結局彼女の頭の高さに上げられる。

とん。

じっと見る瞳。ちょうど首のあたりに当たる右手。
時折ふいに、思い出したように行われる、彼女と僕の背比べ。
それで十分、それが合図。

「……ん!」
「……」

短く呻く声は敢えて無視する。
あの日から、彼女は何を思ってか、こうやって俺の『本性』を『確かめる』。
あの日と同じように、俺の首元に手を触れる。それは背比べであって、二人の合図だった。
俺はその度に首元の手を掴み、奪うように彼女の口を塞いだ。
まるで、それが俺のスイッチであるかのように。

何度でも確かめればいい。
そう言ったのは確かに自分だ。けれど、本当に確かめるとは思わず、今でも彼女の意図が良く掴めないでいる。

そっと、目を開けた。至近距離の睫毛。
最初と同じように、ぎゅうと閉じられた瞳。けれど心なしか、少しだけ力が抜けている気がした。
そして、ふと気付く。

口元が、僅かに緩んでいた。

余裕とも取れるその表情に、俺は更に噛み付くように彼女を奪う。
それだけでは足りなくなって、がぶりと彼女の唇に噛み付いた。

「……っ!!」
「……」

彼女が息を詰めるのが分かった。
しかし、それは一瞬。

「……っ?!」

がぶり。
そうとしか形容できない潔い噛み方は、しかし俺の物ではない。
彼女が、逆に俺の唇に噛み付いたのだ。

「……」
「……」
「……何、考えてんだよ」

顔を離しても尚至近距離。
噛まれた口からやっと出たのは、ただその一言だった。
彼女は読み取れない表情で自らの唇をなぞると、こちらを真っ直ぐに射抜く。
そして、あろうことか満面の笑顔を俺に向けた。

『いっつも何をお祈りしてるの?』
彼女の問いに、心の中で応える。

大したことじゃない。ただ――
何度も繰り返したその続きをもう一度繰り返し、苦い表情になった。
彼女がそれを見て何を勘違いしたのか、「勝った」と言わんばかりの得意そうな表情になった。


なぁ、神様?


贅沢は言いません。
ただ一人、馬鹿な女を俺にください。




お題【背比べ】


当初「背比べ」(※「ねぇ神様」の掲載時タイトル)がブログの字数制限で予定の半分しか書けなかったので、二本立てになりました。どんだけ量予想出来ないの自分。
この話だけでも(一応)独立させてはいますが、クリフが黒いという大前提が必要なあたり、普通に失敗しています(笑)
いや、でもウチのクリフは大体黒いよ?(←フォローになってません)
クリフ魔王のいっぱいいっぱいっぷりが書いてて楽しかった作品でした。